コロナウイルス(COVID-19)の拡大と企業の対策状況

まえがき

まず、この記事を書いている時点で(3月31日午後)すでに感染者数は全世界で*786,854名(国内: 2000名超)、うち、このウイルスへの感染によって死に至った方々は*37,837名(国内: 56名)に上っている。本記事では拡大に関するこれまでの情報と企業の対策についての状況をまとめていくが、その前にこの病によってこの世を去ることとなった方々とそのご遺族に対し心からの哀悼の意を表するとともに、感染をされ、現在病との闘いを続けている方々においては早期の回復を祈るばかりである。そして日夜、感染へのリスクと戦いながら病の拡大を防ぐために働く全ての方々に対し感謝と尊敬の言葉を先に記しておきたい。

* ここにある数字はこちらのWebサイトを参照 (https://www.worldometers.info/coronavirus/)

 

感染拡大の時系列と経済状況の推移

 

まず、このパンデミックがどのような経緯で広まってきたかについて書いていきたいと思うが、本記事では、感染源については現在情報が錯綜しているためこれについては今後の報道や専門家の発表に任せるとしたい。その上で、時系列で今回の拡大を特にマクロ的な視点から各国の状況とマーケットの状況に加え、QADとして注目している自動車製造業をはじめとする各国の製造業の動きについてそれぞれを並列に見ながら論じて行きたい。

 

初めて中国からWHOに対して原因不明の病が広がっている旨の報告があったのは2019年の暮れのことだった。当初、魚市場に出入りする人々が次々と感染していたことを受けて、地方政府当局が魚市場などの閉鎖を決定している。その後中国国内で初めての使者が確認されたのは1月9日の時点だった。当時、西洋諸国の見方は非常に楽観的でSARSの際のような対岸の火事としてみている面が強かった。それを裏付けるように、将来を見通す株式市場(S&P500)も1月22日ごろまで上昇を続けていた。ただし、日本を含む周辺国ではそれより一足先にImported Case(来訪した中国人の発症事例)が発生が続いていた。タイでは1月13日、日本では同月16日に武漢地域からの来訪者が感染した事例が報告されている。さらにその後、20日には韓国で武漢へ訪れていないとする方の感染が初めて確認されている。

 

感染の拡大を懸念した中国当局は、1月23日に武漢地域の都市封鎖を決定し、国外では1月24,25日頃までに、オーストラリア、カナダなどユーラシア大陸以外での感染も確認されており、世界中を簡単に移動できる今日の社会において感染の広がりがいかに急速であるかがここで見て取れる。特に中国人の旅行シーズンである春節(1月末頃)の連休が重なったことも大きいとされている。

 

さらにこの頃から日産やホンダ、PSAなど日系のOEMが武漢から従業員を引き上げる発表を行っており、これと同時期にはFCA,GM, Fordも春節での工場の休業期間を延長するとともに従業員に対して武漢地域への出張を制限すると発表している。コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンへの影響の大きさをマーケットが敏感に捉えて、1度目の下落が始まったのもこの頃である。OEM以外でもドイツ系サプライヤーのWebascoなどでも感染確認されている。

 

次々と感染の報告が上がる中、WHOはコロナウイルスの拡大が世界的な懸念であるとの声明を1月30日に発表し、そこから中国へ訪れた人々に対する水際対策が講じられることとなる。実際に、この頃に筆者はQAD本社へと出張で訪れているが14日以内に中国に訪問したかどうか再三のチェックを受けている。

 

2月に入り中国国内での死者は300人を超え、フィリピンでも初めての死者が報告され、その結果、中国や香港、マカオからの来訪者に対し14日間の隔離を義務付ける政策を実行に移す。1月末ごろに中国の中央政府が動きを見せ始めると、2月4日頃には武漢地域に巨大な医療機関を10日で完成させたとNew York Timesが報道しており、対策に対し国家を挙げた対策を打ち出していることがわかる。さらに中国ではFordと江鈴汽車の合弁会社が救急車モデルの車両を生産しているが、このモデルの需要が急増しているのもこの頃である。

 

一方、サプライチェーンの視点から見ると武漢の封鎖から10日あまりで現代自動車(韓国)が部品の供給不足により韓国国内での生産を一時停止することとなる。春節を前にサプライヤーでは在庫を積み上げて事前に準備を進めてきたが、この辺りから供給が困難になっていることがわかる。2月7日にはトヨタ、ホンダが、中国国内の工場の停止を2月17日まで延長すると発表し、それに追随する形でFCA(フィアットクライスラー)は欧州地域での生産の停止を発表した。ロイター通信は2月17日時点の記事で生産台数に対する影響は100万台と推計し、中国での自動車販売台数が18%落ち込むと報道している。ただ、Teslaに関しては上海エリアでの生産を行なっていたため、中国政府の協力を得ながら生産を続けていく構図となったのも一つ注目しておくべき点と言える。

 

2月21日には中国で自動車関連の工場が操業を再開を始めたものの平常時の生産量には遠く及ばず、サプライチェーンのディスラプションが顕在化が決定的となった2月24日に世界的な大暴落が起こり、株価はそこから下落の一途をたどることとなるのは読者の方もご存知の通りだろう。WHOがこの日”パンデミック”の言葉を使い世界へ警告を出した事も一因となっている。Audiのベルギー工場の停止やGMの武漢工場の生産停止延期など明らかにサプライサイドでのディスラプションが起こっているのがわかる。この時期にすでに大規模な展示会やイベント等は開催を中止する形となっている。ロイター通信はデータによると中国国内の自動車生産は87%の落ち込みとなっていると報道している。

 

(S&P500の直近6ヶ月の値動き ー Source: Yahoo Finance S&P500 Chart)

3月に入るとイタリアやスペインに感染は広がり、イタリアでも1182件の事例が報告されている。WHOが危機レベルを引き上げると同時に国連からは1500万ドル、アメリカ政府から3700万ドル、世界銀行から1200万ドルと次々と緊急の対策資金拠出を発表、合わせてIMFも新興国向けに低金利、一部ゼロ金利の貸付を発表。3月8日には感染事例が確認された国は100カ国を超えた。

 

3月前半から中ごろにかけて、アメリカ本土での感染者が確認され始め、生産を続けていたデトロイト3もUAW(北米自動車労働組合)からのプレッシャーもあり、それぞれ生産を停止することとなった。ソーシャルディスタンシング政策が広く打ち出され始めた3月中旬から下旬にかけてそれぞれ自動車メーカーサプライヤ共に北米やヨーロッパでの生産が停止されている。

 

 

危機の中で企業が取るべき対策1

 

今回のCOVID-19の感染拡大によってビジネスに与える被害は深刻だ。上述しているように最も大きな問題はサプライチェーンの乱れであるが、それにより販売の落ち込みや、ソーシャルディスタンシングによる従業員のリモートワークが始まり、生産性にも影響がある。さらに移動への制限でもビジネスに影響が及ぶことは容易に想像できるだろう。

 

さて、サプライチェーンのディスラプションと売上の低下については後述にて触れるとして、リモートワークと生産性の維持について少し論じてみたい。

 

短期的に非常に重要なのは、従業員のリモートワーク環境を整えることだろう。IT的な目線から見れば、どういった部分でテクノロジーの助けを借りるのか考える必要があるので、ビジネスの範囲で例えば、会議ができないのか、データを交換できないのかあるいは顧客の情報を見ることができないか、更に言えば、ERPにどのようにアクセスをするのか。この辺りは非常にクリティカルなビジネスニーズが検討すれば出てくるだろう。

 

会議用のシステムで言えば、Googleのハングアウト やZoom、コミュニケーションツールではSlackなど整備が進んでいなければ、必要なソリューションの導入を進めていく必要があるが、ここでIT部門としてはセキュリティー面でのレビューも欠かすことができない。

 

ERPなどに関して言えば、現在はQADでもWebベースのAdaptive UXへと数年前から移行しており、Cloudベースのソリューションのため社外のネットワークからでもセキュアにアクセスすることができるようになっている。一方で、導入には先ほどのコミュニケーションツールなどのアプリケーションと決定的に異なるのはERPは数日で刷新できるものではないため、ある程度中期的なアクションとして見ておくのが良いだろう。この際にはCIOを始めIT戦略としてはクラウドを中心に考慮すべきだろう。オンプレミスのシステムをメンテナンスするのもまた同じ地域に住む社員である可能性が高いからだ。

 

IT部門の目線からマネジメントへと視点を移すと、社員を評価する物差しをそれぞれ変えていく必要も出てくると言える。特に、旧来の労働時間を基準とした評価(あるいは”勤怠管理”というべきだろうか)は見直しを迫られる。リモートワークで重要なのは誰が、いつログインしているかやPCの捜査状況を監視することではなく、慣れない状況でもリモートワークできる従業員に関しては達成可能な目標を設定しパフォーマンスを適切に測ることにある。当然、報告も必要になるのでWeb会議なりで短い報告をするように部門で決定していくことが重要となる。

 

中長期でどのようなシステム環境を整備していくかについては、この機会にマネジメントとIT部門で綿密に話し合って、パンデミックが落ち着いた後に練った戦略を実行に移せるようにリサーチやレビューを行うと良いだろう。(当然QADも検討をしていただきたい。)

 

 

危機の中で企業が取るべき対策2

 

前項で示したようにサプライチェーンのディスラプションや売上の落ち込みに対して各国の企業は様々なアクションを起こしている。例えば、現在世界中で人工呼吸器の需要が急増している一方で、これまで再三論じてきたように、自動車の需要は激減している。

人工呼吸器メーカーのVentecは、24時間体制で生産を行なっているが、全くデマンドに追いつかない状況だった。その中で医療機器メーカーのVentecと自動車メーカーのGMはパートナーシップを結び、GMはサプライヤー全社に対して人工呼吸器のパートを製造するように連絡を出したところ、いくつものサプライヤーが製造が可能と判明し、例えば人工呼吸器の中にある小さいピストンもGMのサプライヤー企業が生産を行なっている。その企業はVentecからおよそ20万個ほど受注したと言われている。このように、現在ある技術を活かし、別のビジネスに対して製品を売ることで激減した売上からの回復を可能にしているという。ただ、通常新製品の立ち上げには12週かかると言われているが、この企業は非常に素早く立ち上げることに成功し、それも売上へと大きく寄与している。ビジネスの方向性をビジネス環境に合わせて適応することがいかに重要かわかる事例である。このスピード感にはシステムの柔軟性が背景にあったことは言うまでもない。

 

 

情勢の変化とITシステムの重要性

 

兼ねてからQADではAdaptive(適応性)をテーマに製品を開発して適応力とアジャイルなソリューションを重要な柱としてきた。激変する時代に関してテクノロジーによるディスラプションを中心に語ってきた文脈に新しいパンデミックという現実がさらにこの重要性を強調しているように感じてならない。生産、サプライチェーン、ITと部門にかかわらず、テクノロジーがいかに柔軟でかつ変化に即座に対応できる状態にあるか今一度見直して、次に訪れる危機をどう乗り越えていくのか議論するいい機会となるだろう。